君に捧げるラストノート

三番隊隊主室でギンに捕まってしまったルキア。ギンは質問に答えたら解放するという…
キミとひとつになってしまいたい
ボクがキミでキミがボクで
それは叶わぬ夢だから
キミの香りを纏いたい
ボクの香りとキミの香りが
とけあいひとつになったなら
キミは花ことばよりも美しい
香る言の葉を紡いでくれるだろうか・・・


朽木ルキアは市丸ギンの腕の中で途方に暮れていた。
今までも,一人で隊舎の廊下を歩いている時や,隊舎の裏庭で休憩をとっている時に背後から抱きしめられたことはあったが,ここは三番隊隊長執務室,ルキアに逃げ場はなかった。しかも外の音が全く聞こえてこないところを見ると結界も張られているに違いない。自分ごときのためになぜここまで・・・相変わらずこの男の考えることはルキアには理解不能だった。

「ルキアちゃんは何の香りをつけとるの?なんかボクにもわからんええ匂いがする。」

「私は何もつけてはおりませんよ。」

「そうなん,じゃあこれはルキアちゃんの香りなんやね。」

ギンは背後からその艶やかな髪をかきあげ,ルキアのうなじに唇を寄せるといつくしむように香りを楽しんだ。ルキアはその感触に鳥肌を立てながら何とかこの怪しい雰囲気から逃れようと口を開いた。

「市丸隊長は香道の心得が,おありなのですか?」

「ん――遊び程度やけどね。でもルキアちゃんの香りは,ボクの知っとる,どの香木ともちゃうねえ。たくさんの花の香りが混ざっとるような甘い香りや・・・」

何と答えてよいかわからず,ルキアは口をつぐんでしまう。

「ルキアちゃん源氏物語って知っとる?」

唐突に話題が変わり,ルキアはしばし考え,最近,雛森桃,伊勢七緒と話題にした本の中にあったことを思い出した。

「現世の古典ですね。まだ読み始めたばかりですが・・・」

「うん,その話に出てくる貴族連中,みいんな衣に香を焚きしめとるんやけどなあ,一人だけ衣に香を焚けないもんがおるんよ。」

「なぜです?」

平安貴族にとって香を衣に焚きしめるのは,身だしなみであると同時に己の個性を主張し,かつ権勢を示す意味を持つ。貴族の身で香を衣に焚きしめぬとは・・・?

「薫の中将ゆうてね,なあんも付けんでもええ香りが体から薫りたったからなんや。」

「香りが体から・・・?」

「そ,ルキアちゃんみたいになあ。他の香りは,なあんも付けられん。どんな香りも負けてしまうし,どこに居てもわかってしまう。孤独なのに注目される。結構,難義な体質やけどねえ。」

「孤独な方なのですね・・・」

「ルキアちゃんと,よお似とると思わん?」

「わ,私はそのような体質では・・・」

ルキアの抗議には答えずギンは楽しげに笑った。

「薫の中将は感情が,高ぶれば高ぶるほど薫りたったそうや。今ルキアちゃんの香りもだんだん強うなってきとるよ。」

「戯言を・・・」

ルキアは真っ赤になってギンの腕から逃れようとした。しかしルキアを抱きしめているギンの腕は緩やかにまわされているように見えて,微動だにしない。いつも焚きしめているギンの香りがふわりと鼻をくすぐる。

「ルキアちゃん,ボクの香りが何かわかる?わかったら腕外したるよ。」

ギンの答えのわかりきった問いかけにルキアはホッとして答えた。

「おまえがいつも焚きしめている香は沈香だ!正解を言ったぞ,とっとと離せ!」

もはやこの様な不埒な輩に敬語など不要とルキアはきつい言葉でギンにつめよる。
その答えにギンの笑みが深くなり腕にいっそうの力がこもる。

「な・・・正解を言ったのになぜ離さぬ?嘘つきめ!」

「半分しか正解やないよ。だから離すわけにはいかへんねぇ。」

「は,半分?貴様,沈香に何か混ぜておるのか?」

「確かめたらええよ。」

ギンはルキアの体を反転させると,胸に押し当てるように抱きしめた。ルキアは不本意ながらギンの香りを胸一杯に吸い込んだ。香道の勉強は朽木家での必須科目である。ありきたりの組み合わせであるなら分析も可能であった。ルキアはギンの纏う香り,沈香の中に確かに異なる香りを感じた。どこか蠱惑的で心魅かれる香りが・・・ルキアはギンの香りに包まれ酩酊しそうになる。

ギンの胸から顔をあげたルキアの頬がわずかに染まり,少しだけ息があがっているのをギンは舌なめずりをするような視線で見つめた。

「降参かいな?ルキアちゃん。」

「誰が,降参など・・・」

香りに酔った感じになってしまったルキアはわずかによろけた。ギンは素早くルキアを抱きとめる。沈香の香りに媚薬効果などないのに,ふらつく頭でルキアは惑った。

「あかんよ。もう時間切れや。」

ギンは自分の腕の中にぐったりと体を預けるルキアを嬉しそうに見つめながら口を開いた。

「ルキアちゃん,朝つけたばっかりの香りのこと,なんや異国の言葉でファーストノートちゅうんやて。」

「ふぁーすとのーと?」

「まだ自分の香りと馴染んでいない生のまんまの香りや。そんで昼ころには半分くらい自分の香りと溶け合うて,その状態をミドルノート。」

「みどるのーと・・・」

「夕刻には完全に自分の香りと溶け合うてラストノートになるんやて。つまりはそういうことや。」

「わけがわからぬ・・・」

「沈香とボクの香りが溶け合ったラストノートが質問の答えや。」

「そんな答えは反則ではないか・・・」

「負け惜しみはあかんよ。これでボクはこの手ぇ離さんでええっちゅうことやね。」

抱きしめていた腕にさらに力が加わり,ギンはゆっくりとルキアを長椅子の上に押し倒す。

「や,やめっ・・・」

ギンの体を押し戻そうにもギンの香りに酩酊しきってしまったルキアの体にはいっこうに力が入らない。

「貴様,沈香に媚薬を混ぜたのだろう・・・」

ルキアは真っ赤になった顔に,それでも精一杯の怒りを込めてギンに言い募る。ギンはルキアのうるんだ瞳に口づけを落とすと,初めて見る優しい顔で微笑んだ。

「媚薬なんぞ使うとらんよ。キミがボクの香りに酔うただけや。ボクもキミの香りに酔うとるよ。おぼれそうや・・・」

ギンの口づけに,もうルキアは抵抗が出来なくなっていた。ギンの香りに包まれる・・・自分の香りも溶けていく。すでにひとつになってしまったような酩酊感に包まれ,酔わされ,おぼれていく。ルキアは自分に覆いかぶさってくる男の背中に腕をまわした。







「ルキアちゃん,薫の中将が,ただひとつ別の香りを纏うことのできる場所があるんよ。」

腕の中でまどろむルキアにギンは囁きかける。ルキアはうっすらと眼を開けギンの顔を見上げる。

「閨の中や・・・睦言の時だけ薫の中将は,自分の香りに他の香りを纏わせることができるんよ・・・」

「そうか,じゃあ薫の中将は寂しくはないのだな。」

孤独な香りを纏う,薫の中将の姿が本当は自分と重なっていた。
ルキアは薫の中将に寄り添う優しい佳人を思い,微笑みを浮かべた。

「そうや。だからルキアちゃん,キミも・・・」

ギンはまるでひとつになってしまいたい程の愛しさをこめてルキアを抱きしめた。

「ボクの香りだけを纏うていて・・・」


キミの香りとボクの香りが
優しくひとつにとけあうとき
それはボク達二人の永遠のラストノート・・・

                  〈END〉

あとがき 
日本語ではファーストノートのことを上立ち香,ミドルを中立ち香,ラストを後立ち香と言うそうです。そして相手本来の香りを芳香と感じる者同士の体の相性は最高だそうです。
薫の中将のように体から良い香りのする体質のことを芳香異体といい,稀ですが本当にそういう人いるそうです。いいなあ香水要らずで♪

この小説は私の心の至宝である樹みさを様の小説『隣のおにいさん』の挿絵を描いて下さった絵師様,ノム様にお捧げ致します♪ギンとルキアの愛しあう姿からよい香りが立ち上ってくるようなイメージを受けてこの小説はできました♪♪♪
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香りは生かしも殺☆しもしますね

e-420kokuriko様、Blog開設おめでとうございますe-420

近いうちにサイトを開かれるのでは・・・・・と秘かに期待しておりましたので、ご連絡頂いて大層嬉しゅうございました。

kokurikoさんの、ギンルキへの深い愛情が珠玉の作品となって、多くのギンルキラバーの心を捉える日も目の前ですね♪

ギンルキラバーだけでなく、ルキアを愛する者、そして大人の鑑賞に堪えうるハイレベルな作品を書ける作家さんとして、今後のご活躍を大いに期待しております。

さて『君に捧げるラストノート』ですが、今様なタイトルとは裏腹な源氏物語の世界感に、まず e-278
右大将薫の君にe-278 ←コレは個人的嗜好ですが(笑)
香道は私の関わる茶道の中でも、「花を生ける」と共に「香を聞く」事をいたしますので、ギンルキ小説に香道が登場するはe-278

「香り」というのは不思議なもので、良い気持ちにも、不快にも、麻薬にもなりますよね。
その昔西洋では、薔薇の香りで囚人を殺☆す・・・という拷問もあり、『パヒューム』という物語では(映画化もされました)香りに惑わされて殺人も犯しました。

目に見えぬもの「香り」・・・・けれどその力はとてつもなく大きく強い力を秘めています。
どことなく、銀髪のあの方を彷彿とさせる・・・・気もしますね。

以前作品を拝読させて頂いた折「kokurikoさんのファンクラブ1号にして下さい!!」
と申し上げたのを覚えていらっしゃいますか?
覚えていて下さったら私としてはこの上なく光栄です(^^)

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神の意志はともかく市丸ギンと朽木ルキアをこよなく愛しております♪

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