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卵と蛍に浮気うぐいす

イヅル視点のギンルキ小説です♪イヅルキ要素も含んでいます(^O^)久しぶりにちょこっとだけ長めのSSを書き上げました。
都々逸とは江戸末期に初代の都々逸坊扇歌(1804年-1852年)によって大成された口語による定型詩。元来は、三味線と共に歌われる俗曲で、音曲師が寄席や座敷などで演じる出し物であった。 主として男女の恋愛を題材として扱ったため情歌とも呼ばれる。


その日,十三番隊に用のあった三番隊副隊長吉良イヅルは雨乾堂と隣接する執務室の方に顔を出した。
もちろん訪ねるにあたってきちんとした別件の用向きはあったけれど,どちらかと言うと上司である市丸ギンから朽木ルキアへの届け物を渡すことがメインであった。
そして,その届けものというのがなんとも奇天烈なことに『ゆで卵』であったのだ。
異国の救世主の復活祭でもあるまいに,首をひねりながらイヅルがルキアに渡したそれには達者な筆使いで『今宵』と書かれてある。
イヅルが別件があるとはいえ,使いを引き受けた理由は女心に聡い上司が恋人に贈るものとしてはいささか外し過ぎな,まるで判じ物のような贈り物の答えが知りたかったせいもあった。
しかし,イヅルの当惑を他所に,ギンからの贈り物だというゆで卵を渡されたルキアは面食らう様子もなく小さな手のひらに乗せられたゆで卵を綺麗な指先でつつきながら,ひとりごちるように呟いた。

「興味の無さそうな顔をしておったが,私に隠れて読んでおったのだな」

話の見えないイヅルがきょとんとしているのを見て,ルキアはくすりと笑った。そして,苦笑しながら,この面妖な贈り物の理由となる最近ハマっている本について語り始めた。
読書好きのルキアが同じ趣味をもつ雛森桃と伊勢七緒で作っている読書会で現在大いに盛り上がっている一冊の本があるらしい。それは現世で七緒が見つけてきたもので,古典から現代にかけての都々逸の名句・秀句を掲載した,アンソロジー本。それがたいそう面白く先日のギンとの会食の際にルキアは,その話題を出したとのことだった。どうやらギンは密かにその本を読んで,贈る品物にまつわる都々逸で自分に己の意思を伝えようという魂胆らしいと。
イヅルはルキアの説明に,へえ,と感心した。
日頃,ルキアが本に夢中で一緒に居てもちいともかまってくれへん,などと不平を言っていた,あの駄々っ子のような上司が愛する恋人のためとはいえ,己の趣味でもない読書までするのかと呆れ半分とその情熱を少しくらい仕事に向けて欲しいという不満半分のため息がイヅルのくちから漏れた。

「じゃあ,このゆで卵には何か関連する都々逸があるの?」

「ん…」

イヅルの問いかけにルキアの視線が僅かに泳いだ。白磁のような肌がぽっと薄紅に染まる。

「そ,それは私の口からは言えぬ…と,とりあえず,あやつが殊勝にも本を読むことへの理解を示したのだ。返事くらい書いてやらねばな」

どうやらギンの作戦は,功を奏したようである。
ルキアはゆで卵を死覇装のたもとにそっと滑りこませると,机の上に広げられた書類用の半紙を一枚取り筆で何やら文字をしたためイヅルに手渡した。
それは大きく力強い筆致で書かれた『蛍』の一文字。

「これも,都々逸と関係あるの?」

「ああ,あやつがきちんと本を読んだのならわかるだろう。吉良殿,お忙しいというのに,あのたわけのためにご足労させて本当にすまなかった」

ルキアは不思議そうなイヅルにペコリと頭を下げると花が開いたような愛らしい顔で微笑みかけた。
ドキン…イヅルの心拍数が跳ね上がる。
相変わらず,ルキアのこの笑顔は心臓に悪い。上司と目の前の同期と付き合っていく限り,胃痛と不整脈は己の持病になりそうである。


その他の所用を全て済ませて半刻後に三番隊に戻ってきたイヅルにギンは待ちかねたように催促する。

「イヅルー遅かったやん!ルキアちゃんの返事はぁ?」

「はいはい…」

自分が留守をしていた間も少しも仕事が進んでいない上司の机の上を一瞥しながらイヅルはため息をつきつつ,たもとからルキアの返事を取り出し渡した。
ひったくるように受け取り,満面の笑みを浮かべて手紙を開いたギンの顔が拗ねた子供のような表情に変わった。

「なんやの。このつれへん返事。あかん,すぐ返事書かな!」

「言っときますけど,もう用事も無いですし伝書鳩は他をあたってください」

イヅルは大量の仕事の載った副隊長机の席に座りながらぼやくように告げる。

「伝書鳩言うよりイヅルは,山羊さんゆうびんって感じやけどね」

即座にイヅルの言葉を揶揄するように,この大人げない上司は軽口を叩いた。
ピキ…イヅルのこめかみの血管がかすかに震えた。
甘やかすと癖になる,下手に出ればつけあがる,この我侭極まりない子供上司にイヅルの静かなる怒りが発動した。

「……絶対に行きませんからね!」

「…!?」

ギンは即座にイヅルの雰囲気が変わったことを察した。そういうところは敏感なのだ。いつもなら己の軽口に対して,軽くいなす部下のいつにない硬化した態度に珍しく動揺している。

「ちょ,ちょう待ってやぁ,冗談やん,イヅル。ボクを助けると思って,もっぺんボクの手紙ルキアちゃんとこに持って行ってや。こないなことイヅルにしか頼めへん」

片手拝みをしながら慌てるギンにイヅルは冷めた視線を投げかける。
ギンとルキアが恋人同士であることは瀞霊廷中で周知の事実であるが(ごく一部に断固認められてはいないが)腹心のもの以外に恋人同士のプライベートな頼みごとをするのは,この厚かましい上司もさすがに少々気恥ずかしいらしい。
なにしろ,就業中ギンはルキアに会いに行くことを固く禁じられている(来られると浮竹が出てきて諌めるまで誰も追い返せず仕事にならないので)。
それでも何とかしてルキアと接触を持ちたいギンは腹心のイヅルに隊務連絡に便乗させて付文や贈り物をルキアに届けさせているわけなのだ。
実のところ手紙などという古典的手段を用いなくとも伝令神機のメール機能でやり取りすれば良い話なのだが,ルキアは職務中に仕事以外のメールを一切見ないので(特にギンからのメールは休憩中も見ない)己が如何にルキアを想っているかのアピールが出来なくて寂しいらしいのだ。
そういうことは非番の日にでもやってほしい……
それに,使いにイヅルを用いるのは副隊長でありながら子供のお使いのような私的雑用を言いつけられる同期をルキアが不憫がり,畢竟ギンへの態度を和らげることになるのもこの抜け目ない上司の計算のうちであることはわかっている。
まったく小面憎いこと甚だしい。

「僕だって,これで忙しい身なんです(誰かさんのおかげで)貴重な就業時間を割く以上,僕が山羊に似ているなんていう冗談(自分は狐そっくりなくせに)に対する謝罪と(くだらない私的雑事の)ご命令の遂行に対する見返りは当然身体で払ってもらえるのでしょうね」

イヅルの丁寧ではあるが凄みのある口調にギンはどこか不穏なものを感じたらしく珍しく眉をしかめた。

「何か,いろいろ言葉省いとったような…えっ!身体でて?いややで,そんなん!ボクの身体は髪の毛一本から足の爪先までルキアちゃんのもんやで!貞操は売れんわ!!」

我が身を袖でかばうような芝居がかった仕草をする上司にブリザードのような冷たい視線を送りながらイヅルは最後通牒のように言い放った。

「そんなおぞましい寝言は寝てても言わないでください。とりあえず目の前にある仕事を全部片づけてくださいませんか。話はそれからです」

イヅルの言葉を聞くやいなや上司の顔が満面の笑みに変わった。

「なんや,そないなことでええの。お安いご用や」

はや筆を取り書類を広げるとギンはさっさと仕事にかかりはじめた。

「ん―イヅル何へたりこんどんの?お茶でもいれてや」

「………」

何やかやと屁理屈をこねてサボりまくったおかげで溜まりに溜まった山積みの仕事を『そんなこと』で済まされてしまったイヅルは,上司を支配するルキアの無敵さと己の無力さに,ただただ脱力していた。


半刻後―
さすがにスィッチが入ったギンの仕事の速さは並ではなかった。長身のギンでも机に向かうと銀髪しか見えていなかったほどにうず高くそびえ立っていた書類はもう半分ほどの高さになり席に着いた上司の姿を久々にかいま見せていた。

(やっぱり。この人は天才なんだな…)

上司の仕事がしやすいよう時系列ごとに書類を揃えながら改めてイヅルは思う。
見た目は変わらず飄々とした様子のまま,手元は超高速で動いている。尸魂界一の最速を誇る斬魄刀を持つ男は仕事においても,本気を出せば最速であるのだ。まったく,そののんびりとした雰囲気と凄まじい速さで動く筆を対比するとあたかもタイムマジックを見せられているような気分になる。

「なあ,ボクがルキアちゃんに渡したもんの意味イヅルはわかったん?」

そんな上司の本気モードを感嘆と諦観を交えた複雑な思いで伺っていたイヅルにギンは気楽な調子で声をかけてきた。右手はサラサラと筆を高速で動かしたまま,左手で頬杖をついてにやにやと笑うギンの視線はイヅルにひたと向けられている。視線を反らしたまま書類が書けるとは,なんとも器用な男である。
惚気るようなギンの視線に,イヅルは先ほどゆで卵を渡した時のルキアの赤く染まった頬を思い出した。もともとお座敷遊びの戯れ歌として発祥した都々逸は男女の艶事を主とした情歌が多い。そのことを踏まえても何やら色めいた内容であろうことは予測はついたものの,そう詳しいわけではないイヅルは早々に白旗を上げた。

「さあ,見当もつきません。差しさえがなければ教えていただけませんか?」

会話に乗ってくれたイヅルに嬉しげに笑いながらギンはルキアに渡したゆで卵について語り始めた。

「江戸時代の都々逸になぁ,

『主と私は卵の仲よ 私 白身で黄身(キミ)を抱く』
                        
                 ちゅうのがあるんよ」

字面から見ても,いかにも誘っているような艶歌にイヅルも先ほどのルキアの態度に合点がいった。なるほど一人寝の寂しさをやんわりと詰るような粋な句である。

「それでゆで卵を」

「そうや。でも,そんだけじゃ言葉たらんから「今宵」の二文字つけたんや。
わかるやろ?」

「……」

イヅルは頭の中でギンのメッセージを要訳した。

『キミに会わなすぎて欲求不満や!仲良うしたいから今夜家に来てな!』

と言うところであろう。やんわりとした情歌が相当ストレートな誘いになってしまっているが,おそらくルキアには伝わったのだろう。あの恥じらいから見て自分が理解した以上に。

「じゃあ,朽木さんの『蛍』と言う返事は」

「こっちの方は有名やからイヅルも聞いたことあるんとちゃう」

ギンは口三味線を唱えながら朗々と歌いあげ始めた。

「恋に焦がれて鳴く蝉よりもォ― 鳴かぬ蛍が身を焦がすゥ―」

更に口三味線でベベベン、と幕切れを決めるとギンはイヅルににやりと笑いかけた。いかにもな艶めかしい句に,なんだか妙にむかついてきたイヅルはわざと無粋に答えた。

「少しはおしゃべりを慎めっていう苦言ですか」

思わぬ期待はずれの答えにカクンと肩を落としたギンは軽くイヅルを睨むが,小さくため息をつき言葉を続ける。

「まあ…当たらずとも遠からじ,やね。一見ボクに焦がれてルキアちゃんが切のうなっとるような句やけど,こんな無粋な書類用のチラ紙に色気のない男前の字で豪快に書いてあるとこみると,この蛍はルキアちゃんやのうてボクを指しとるんやろな。仕事せえへんボクへの苦言はまあ,入っとるっぽいかな」

字面通りの情歌かと思ったら,都々逸とはいえ普通の詩歌と一緒で状況や相手への評価などで伝える意味は微妙に変わってくるらしい。どうやら自分の当てずっぽうが当たってしまったようだ。

「それじゃあ,朽木さんの隊長へのメッセージは?」

興味をひいたイヅルはギンに都々逸の解釈を求めた。先ほどよりも興味津々という顔で自分を見る部下にギンは珍しく舌打ちでもしそうな顰め顔で,しぶしぶ解釈を口にした。

「ミンミンと喧しく鳴く蝉よりも静かに光って端然としている蛍の方に女は惹かれるものだ。蝉のように無駄口叩かず蛍のように黙って仕事を済ませろ!ってところやと思うんや。ボクの誘いには何も答えてくれてへん」

なるほどあの真面目で矜持の高いルキアが隊務中に情歌をストレートに送るわけがない。ルキアが返した,この都々逸にはどうやら本当に叱責の意味合いとやんわりとした拒絶が含まれているらしい。
しかしながら普通なら恋人から送られれば大喜びするような艶歌で小言とは,ルキアも粋な返歌をしたものだ。イヅルはうんうんと感嘆しながら首肯する。都々逸とはなかなかどうして奥が深いものだ。なるほど,やけに上司があっさり仕事をする条件を飲んだのはルキアからの返事を正確にとらえたせいでもあるらしい。
それにしても我が上司は,一冊の本で随分都々逸への造詣が深くなったものである。イヅルはふたりが読んだという本に興味がわいた。

「都々逸って興味深いですね。隊長がお読みになった本はなんという題名なのです?」

「ん―」

ギンは筆の動きを止めぬまま空いている方の手で書類が消えて空いた机の間隙を指さす。
いつの間に置いたのか,そこには一冊の本。着物姿で日本髪のもの思わしげな婦人が表紙に印刷してある。思っていたよりサイズが大きく読み応えもありそうな厚さの本であった。

「その本よかったらあげるわ」

あっさりとギンは言った。イヅルは驚いて声を上げる。

「えっ!いいですよ。まだ,読まれるでしょう?」

「もう全部読んで暗記してもうたから,遠慮せんでええよ」

「……」

本書の紹介に総句数2000余を収録してあると記してある。本気を出せば出来る子な上司は無駄に記憶力もいい。その呆れるほど斜め上な有能ぶりにイヅルはため息をひとつつき,ありがたく本は借りることにした。


昼休み時間となり,食事を終えたイヅルはギンから借りた都々逸本を読み始めた。頁を繰りながら,皮肉の効いた句や,いかにもな艶歌などに,我知らずにやりと笑ったり,深く首肯したりとイヅルは本に没頭していった。これは暫く楽しめそうである。
一心に読んでいるうちに気がつくともう昼休み時間は僅かであった。
イヅルは名残惜しげに本を閉じようとした時,不意に己の片思いの相手の顔が浮かんだ。
そういえば伊勢七緒が主催する読書会で話題の本であるのならば雛森桃もこの本を読んでいるのだろう。次回,会った時に都々逸の話題で会話が盛り上がれば,ふたりのただの同期に過ぎないという関係にも僅かばかりの進展があるかも知れない。
淡い期待と微かな下心から後ろ頁にある索引で調べ,『桃』の頁をめくる。
開いた頁から目に飛び込んできたのは

『梅もきらいよ 桜もいやよ もも(桃,腿)とももとの間(あい)が良い』

イヅルは額を押さえて脱力した。こんな句を話題にしたらセクハラで軽蔑されかねない。
他にも『桃』を含む句の頁数が載っていたので,気を取り直してそこを開くと……

本を閉じて午後の仕事の準備にかかりはじめたイヅルの頬はほんのりと染まっていた。


午後の就業時間を半ばも過ぎた申の刻(午後16時頃)
三番隊隊主室の己が机の前でこの部屋の主である市丸ギンは仕事を始めてから何度目かになる,腹心の部下への懇願を繰り返した。

「なあ,イヅルー。そろそろルキアちゃんとこ行かへんの?」

「見たところまだ,すべてのお仕事が終わられてないようですが」

「そないなこと言うたかて,終わるそばから積み上げていくんやもん…」

ぼやく上司の愚痴を華麗にスルーしながら,イヅルは使いに出るタイミングを冷静に計っていた。実は午前中からの上司の本気モードのおかげで山積みの仕事が今日中に終わるめどはすでについていた。しかし,ルキアという飴を最初に与えてしまえば約束を反故にしかねない彼の性格はよくわかっているのでぎりぎりの時間まで使いに出るつもりはなかったのだ。それにおのが上司がこんなにも真面目に仕事をしてくれる日など現世の名作映画『レナードの朝』並に奇跡的なことなのだからイヅルはこの際,前倒しの仕事もすべてギンにこなしてもらい,日頃苦労をかけている自分や事務担当の隊員たちがせめて予定通りに非番をとれるようにしっかり働いてもらうつもりであった。
そのため,更にきっちり四半刻が経過してから,イヅルは完成した書類を揃えつつ,ひとりごちるように言った。

「さて。そろそろ頃合いですかね…」

上司の満面の笑みを見ないようにしながらそっぽを向く部下の態度など欠片も頓着せずギンは,仕事で使うものとは別の愛用の筆を取り出した。
そして,手に取ったのは書き損じの書類の紙。その隅っこに拗ねたような子供っぽい字体で,ちょいちょいと小さく書かれていた文字は『松虫』であった。

(『松虫』か,なるほど…)

先ほど読んだ本に載っていた都々逸がイヅルの脳裏には即座に浮かんだ。

『庭の松虫音(ね)をとめてさえ もしや来たかと胸さわぎ』

ルキアへのメッセージはおそらく

『今夜来るって言ってくれんのやったら到底寝られへんやん!ちゃんとお仕事もしたんやでつれないこと言わんといて!』

と言うところであろう。
いつもルキアに送る付文用の色とりどりの懐紙ではなく書き損じ書類を使ったのはきちんと仕事をしたという恋人へのアピールが入っているようだ。字を子供っぽくしたのは逢いたくてたまらないのにつれない態度をとる恋人に対して己が若干拗ねていることを汲んで欲しいというところだろうか。
なかなかどうしてイヅルも俄仕込みとは思えぬほどの洞察ぶりである。
しかしそんな様子はおくびにも見せず,上司から渡された手紙をイヅルはいかにも億劫そうにたもとに入れた。

「はあ…僕が出ている間サボったりしないでくださいよ!」

わざとらしくため息をつき,ブツブツ言いながらもどこか満更でもないような様子で隊主室を出ようとするイヅルに,なにか感じるものがあったのか,薄青の瞳を僅かに開眼させギンはちらりと疑わしげな視線を部下に送った。

「なあんか嬉しそうやね。なあ,イヅル,まさか雛森ちゃんは当て馬で,ほんまはルキアちゃんをねろうとるんやないやろね?」

背中に投げかけられた言葉に先ほど昼休みの終わりに読んだ

『浮気うぐいす梅をばじらし わざととなりの桃に鳴く』

という句を思い出し,イヅルはほんの少しぎくりとした。


終業時刻の半刻ほど前に十三番隊執務室にイヅルが顔を出すと,執務中の平隊士が三番隊副隊長にすぐに気づいて,席を外し奥部屋で仕事をしていたルキアのもとに通してくれた。
誰を訪ねてきたとも言う前に案内されるのだから己の使いっぱしりもすっかり定着してしまっているのが情けない。
資料整理をしていたルキアは隊士に案内されて入室してきたイヅルに笑顔を向けた。
もう一度来ることを見越していたのか驚いた顔もしない。

「おお,吉良殿,あやつは仕事はきちんとしておるのか?」

「うん,君の返事が効いたみたいでね。君のおかげだよ,ありがとう朽木さん」

吉良の久々に見る安堵をたたえた笑顔にルキアもクスクスと笑い返す。

「あの歌を文字通りに読んで,嬉々として私のもとにやってくるようなら,叱りつけて叩き帰してやったところだが,吉良殿がまたも手紙を運んで来れたということは真面目に仕事をしておるのだな」

まったく敵わないほどお見通しだ。完全に我が上司はこの聡明な恋人に手綱をとられ尻に敷かれているようだ。
それでいて,まるで手のかかる弟であるかのごとくあしらわれていることに不平を言いながらも,そんな状況を惚気ながら楽しんでいるのだ。当て馬の自分はなんとも間抜けに思える。しかしながら,上司のルキアへの我侭に振り回されるたび,ルキアの小気味良い采配で結果的に仕事がはかどり,最後はこの愛らしい笑顔を己に向けてもらえるのだ。そう悪い駄賃でもないとも思える。
己の複雑な立場と心境にイヅルは苦笑を漏らす。
イヅルがそんな物思いに耽っているとも知らず,ルキアはギンからの返事にちらりと視線を走らせると,懐から薄紅色の懐紙を取り出し,細い筆でひらりと優雅に手首を返すと柔らかな筆致のひらがなで『ばか』としたためた。

「これでわかるの?」

「ああ…まあな…」

ルキアは先ほどよりも恥じらった様子で少し困ったような,怒ったような優しい笑みを浮かべた。それ以上は踏み込んで聞けずイヅルはなんとなく後ろ髪を引かれるような思いで十三番隊をあとにした。


ルキアからの返事を受け取った三番隊隊長は,手紙を広げた瞬間ぱあーっと音が聞こえてきそうなほど嬉しそうに笑い,受け取った懐紙に接吻を繰り返している。
返事の内容を尋ねるのも馬鹿らしくイヅルは用意した前倒しの仕事をあてつけのようにどさりと上司の机の上に積み上げた。
以降,にやにや笑いっぱなしの上司の様子を気味悪そうに見つめるイヅルを尻目に終業の鐘が鳴り響くと同時にギンは瞬歩もかくやというほどの速さで隊主室を出ていってしまった。
どうやら今宵の逢引は了承してもらえたようである。
上司が去った後イヅルはギンから借りた本を再び手に取り,索引を引いた。
『ばか』という文字が入った句の頁をめくると

『拒む気はない一言馬鹿と 肩へ廻した手を叱る』

パタン…本を閉じると同時に,リア充爆発しろ!という品のない言葉が思わず頭に浮かんだイヅルであった。


翌朝―いつものように早く出仕したイヅルの机の上に上司の休暇届とともに走り書きの紙が一枚。

『横に寝かせて枕をさせて 指で楽しむ琴の糸』

ちゅうわけで野暮なこと言わんといてね。今日のお仕事よろしゅう♪

まったくいつの間に置いたのやら,憎たらしいほど達筆の字で書かれた薄紅色の半紙をイヅルはビリビリと破り捨てた。

都々逸なんか嫌いだ……


『嫌なお方の親切よりも 好いたお方の無理がいい』
これは己の上司にはどうにも当てはまらないようである。

             

             〈END〉


〈あとがき〉
実はこの話は私の大好きな漫画『鬼灯の冷徹』で二次創作を描いていらっしゃる方がいて,その方が都々逸ネタでとても素敵な漫画を(もちろん鬼灯様と白澤さんのCPです♡)pixivに載せていらっしゃったのを見て生まれました!都々逸って面白い!最高!と舞い上がり,かつ,いつもギンルキで脳内変換させて頂いている方の素敵過ぎる漫画に触発されて今回のギンルキ小説に仕上がりました(^O^)○◯◯(←万一ご迷惑になってはいけないので)様いつも読んでいます!貴方様の作品大好きです!!直接言えないヘタレですが応援しています(愛)

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