ひとはそれを狂気という

ギンとルキアの恋愛模様。手玉に取られているのは果たしてどちらなのでしょう?
さて,ふたりの心のなかを覗いてみましょうか。
つくづく目ざとい男である。
十三番隊隊士朽木ルキアが中庭に面した隊舎廊で,六番隊副隊長にして幼馴染である阿散井恋次と隊務連絡を兼ねた雑談をかわしていた時,三番隊隊長市丸ギンは不意に現れた。
ギンはルキアには声をかけず,その姿が他の男の目に映ることさえ認めないかのように二人の間に割り入り恋次の視線を遮った。
態度は常と変わらぬ飄々としたものだが放たれる殺気にも似た霊圧に恋次は一瞬たじろいだ。笑みをたたえた唇がさらに狡猾な弧を描く。ルキア以外に対しては,ギンは不機嫌であればある程その嗤いが深く鋭くなることを知っているルキアは口を挟もうとしたが,ぴしりと飛んできた霊圧に阻まれる。
ギンはのんびりとした口調の中に刃のような怒気を潜ませながら口を開いた。

「こんにちはぁ,阿散井くぅん。仕事さぼって他所の隊のもんと油売ってるなんて,ずいぶんええご身分やねぇ。副隊長さんがこれじゃあ,六番隊隊長さんも苦労するわなぁ」

いくら上官と言えどもギンの嫌味たっぷりな口ぶりに流石に図体の割りには温厚な恋次もむっとした。だいたい人のことを言えた義理かこのキツネ目男は!

「そういう市丸隊長は,副隊長が優秀だから,頻繁に個人的巡察に出られるんですねぇ」

サボリという言葉を精一杯のオブラートに包んだ恋次の皮肉はこの口から先に生まれてきたのではないかというほどの性悪ギツネに通じるわけもない。
ギンはにやにや笑いを口元に浮かべたまま飄然と嘯いた。

「うん,そうや。三番隊の副隊長が優秀やから,有事の時は隊長のボクが三番隊で一番身軽に動けるんよ。ぜぇんぶ副隊長のイヅルが優秀なおかげや。いざ事が起こった時に隊長が即座に対応できる隊なんぞ隠密機動集団の二番隊抜かしたら三番隊だけやろな」

恋次はぐ…と詰まる。自分の怠慢は棚に上げ,己にとって有利な主張を正論のように通すギンの口舌の巧みさに,頭がきれぬわけでもないが口達者ではない無骨な武闘派の恋次には勝ち目はなかった。

「そんじゃあ,そろそろ俺も隊務に戻りますんで,失礼致しますよ市丸隊長!
またな,ルキア」

ぴくぴくとこめかみをひきつらせながら恋次はそれでもギンに頭を軽く下げ,ルキアの肩を軽く叩くと踵を返した。口を挟むこともできず二人のやり取りを呆然と見ていたルキアの肩をギンはわざとらしくぽんぽんと払いその細い肩を抱き寄せると,恋次の背中に向かい小馬鹿にしたように手をひらひらさせた。

「バイバーイ♪さ,ルキアちゃん行こ」

恋次に投げかけられたギンのからかうような挨拶の言葉にルキアは我に返ると,肩にまわされた腕を外し,愛らしい眉を顰めて隊務中は決して呼ばぬ恋人の名を口にした。

「今の態度はないと思うぞ!ギン」

「何で?ボク何も間違ったこと言うてないやん」

隊務中に己の名を呼ばれたことに少々気を良くしながらギンは嬉しげに答える。
ルキアの怒りはともかく隊務中に恋人として扱われるのは大歓迎なのだ。

「間違ってはいなくとも言い方というものがあろう!それに恋次はサボっていたわけではない!兄様…いや朽木隊長の今日のご予定の連絡と,次回の隊首会で浮竹隊長と合同発表する議題についての書簡を届けに来てくれたのだ!」

「お仕事の話の最中に笑っているなんて不真面目やろ」

「おまえだとて仕事の打ち合わせの時に雑談くらい挟むであろう!笑顔が不真面目なら,おまえの地顔は常に不真面目ではないか!」

「えールキアちゃん,ボクの顔,不真面目や思うとったん?ボクかて好きで万年笑顔に生まれてきたんやないのにぃ…ひどいわ~ボク傷ついたなぁー」

捨てられた子犬のような哀しげな顔を装いながらギンはルキアの顔を覗き込む。ルキアは率直な感情表現に弱いことはよくわかっているのだ。案の定ルキアは焦る。

「あ!いや,そういうことでは……」

「ボク,ルキアちゃんの前では目一杯真面目やで,真剣に愛しとるよ」

「いや…だからそういう話では…」

真っ赤に染まった恋人の愛らしい顔を見ながらギンはにやりと笑う。
論点をすり替えてはぐらかすのはギンにとってはお手の物,それに別に阿散井恋次が仕事中に誰と笑おうが怒ろうが興味など欠片もない。

ルキアとだから嫌なのだ!

彼の屁理屈の源はそれに尽きる。
それについてルキアが如何に苦言を呈そうにも自分のために感情を乱しているという事実だけで超ご機嫌になってしまう相手では一向に埒が明かない。ルキア以外の存在など鼻にも引っ掛けない男に説教も説得も無意味なのだが,それでも何とか己の主張を通そうとルキアは言葉を継ぐ。

「しかし,恋次は私の幼馴染だし,良い奴だ。なぜそこまで嫌う?」

「ええ奴やから余計嫌なんや!いつかは幼馴染から格上げされて,キミの心に食い込もうて虎視眈々とねろうている奴,キミの半径百里以内に入れとうないわ!」

どうやらこの男は自分とルキアの暮らす周辺を無人地帯にしたいらしい…
ルキアはこめかみを押さえ,ため息をついた。この傍若無人(傍らに人なきが如し)という言葉がピタリとくるギンの主張にルキアは怒るよりもあきれ果ててしまう。

「わがままな駄々っ子みたいだな,おまえは…」

「そうや,ボクはわがままな駄々っ子や!でも,どうしてわがままなこと考えたらいけんの?ルキアちゃんを好いとるやつらの視線のなかにルキアちゃんが居るのだって嫌なんや!それなのに何でボクの大事な宝物を泥棒の目の前に晒さなアカンの?キミを独り占めにしたいて…過去も未来も今も,キミの喜びも哀しみも怒りも,その感情ぜぇんぶボクのものにしたいて思うことがそんなにいけないことなん?」

「……」

まるで反抗期の幼児である。あまりにも素直な想いの吐露にまたもうっかり赤面しそうになる。本当にこの男は,こと自分に関してはどうしてこうも真っ直ぐなのだろう。
全く開き直りもここまで来れば信念とも言えそうだ。最もここまで率直に己の想いを口にする相手はルキアに限る。普段は誰に対しても常に感情を薄ら笑いの仮面に隠し,己の内面など微塵も悟らせぬ,ある意味鉄面皮の男なのだ。
何のてらいもなく感情を表現する相手は後にも先にもルキアのみ,それは,本人には全く自覚はないけれど,恋愛に関しては壊滅的にルキアが鈍いからだ。この少女には遠回しな口説き文句などまったく通じないことをギンは直感からも経験からも熟知している。
相手が察することを期待した遠まわしの好意や誘い,思わせぶりな態度など,鉄壁なまでの鈍感さと天然さを合わせ持つルキアには全く気づいてもらえず,最悪,無かったことにされてしまうのだから…(守護闘神のようにルキアを護る三番隊,六番隊,十三番隊隊長の存在のせいもあるけれど)
だからこそ,ギンはいつも想いを躊躇うことなく口にする。
そして,ルキアにとってもルキアを慕う者達にとっても悔しいことにそれは大いに有効だ。
あれほど毛嫌いされていながらルキアのためなら恥も見栄も外聞も,自尊心さえもいらないギンだからこそ直球で口説き続け,奇跡的に恋人の座につけたのである。
そんなギンの真っ直ぐな想いをルキアも実は愛しているのだ。
しかし,それでもルキアはその想いの嬉しさ故に己を曲げることはしない。
それはそれ,これはこれ,すじの通らぬことを許容するつもりない。
表情を引き締めるとルキアは長身の恋人を見上げた。

「思うだけならいけなくはない。でも,それを私に強制するのはなしにしてくれ。恋次は私の幼馴染でそれ以上でも以下でもないが,死神としての仕事を続ける上でも,そして仲間としても大切な存在だ。おまえの望み通りに恋次との関係を断つことなど出来ない」

ルキアの凛とした藍紫の瞳と開眼したギンの淡青い天色の瞳が暫し見つめ合った。いくら駄々をこねても決して揺らがぬ少女の冷厳な瞳の中の鋼のような意志を認める。小さく息を吐き視線をそらすとギンは肩をすくめた。

「ん……わかった。ほんまはいややけど…」

先に瞳を逸らしてしまった恋人の拗ねた子供のような口吻に,大人びた表情を崩さないルキアであるが口元が緩みそうになるのを抑えるのに精一杯であった。
渋々ではあってもルキアの譲れない矜持や大切に思うものに対して,受け入れないまでも最終的にはギンは尊重してくれる。
色々と間違っているし,とんでもなく歪んではいるけれど母性本能をくすぐるというか,どうしようもないほど可愛いところがあるのが市丸ギンという男だ。
短所が長所に見えてしまう時があるのはつくづく困ってしまう。
男女ごとには疎いルキアだが,己のギンへの感情を省みる時に,かつて虚に襲われていたところを助けた縁で知り合った花街の売れっ子花魁のことが頭によぎる。事件の調書をとる際,緊張をほぐすためにもちかけた雑談が何故か恋愛話になってしまい,ツケで遊んでいく個人的な贔屓客(郭の贔屓筋ではない)についてさんざん愚痴られたのだが,最後にポツリと呟くように語られた言葉がひどく印象的であった。

『ほんに,あまりに駄目な人間だと普通に振る舞うてくれるだけで 情のあるお方に思えて流されてしまうのでありんす…』

男女のことには百戦錬磨の上級花魁でさえ手玉に取れぬ男がいるのだ。
ましてや恋愛に関しては素人以下の自分の器量には過ぎた男を恋人にしてしまったのだ。たまに普通のコトをしたくらいでギンへの手綱を断じて緩めてはならないのだ。
ルキアは常に気持ちを引き締める。
自分へのギンの執着は規格外なまでに度を超えたものであることは流石にルキアにもわかっている。しかし,それでもこの男の厄介な言動をある程度は許してしまう自分も相当にこの市丸ギンという男に惹かれているのだという自覚もあるのだ。惚れた弱みというのは全く厄介なものだとルキアはつくづく思う。どうにも甘やかしてやりたい気持ちが柄にもなくわいてくる。しかし,相手のすべてを受け入れることが良いことではないことをルキアは知っている。
その気持があるうちは大丈夫だとルキアは思う,この男の恋人であることを胸をはって誇れるのだと。
ひどく満足で心地良い,そして時折ひやりと背筋を走る危うさも混じった幸せな諦観にルキアは拗ねてそっぽを向く恋人に見えないように優しく笑った。


ギンは拗ねたようにそっぽを向きながらもゾクゾクするほどの悦びが胸の内を満たすのを楽しんでいた。
思い通りにしたくてもそうはならない,それがもどかしくもあるが実のところ己の我侭を強い意志と毅然とした態度で諌めるルキアとのやり取りをギンは大いに楽しんでもいるのだ。言いたい放題の我侭を言いながらも,自分の大切に思うもの,信じることに対しては決して揺るがないルキアをギンは愛しているのだ。
結局,己の理不尽な(自覚はある)要求は却下されてしまうことに拗ねたくもなるけれど,最終的に恋人に手綱を取られ御されている状況がひどく心地よいことをギンは自覚している。それに,ルキアが自分を見つめる時の困ったような怒ったような表情のなかに,優しい許しがあることも。そして,その視線がなんともくすぐったく心地よくてならない。
大きな愛情のもとに正しく導かれ,躾けられ,護られている。その不思議な居心地のよさはどこか母子や姉弟じみているが,なぜかそんなふたりの関係がギンには嬉しくてならないのだ。時に,なぜか泣きそうになってしまうほど。
無論,そこそこの不満はあるのだがそこは惚れてしまった弱みというものである。
だからこそ,ギンにとってルキアの(本気の)意見は絶対なのだ。
他の輩の意見などそれこそ馬の耳に念仏,どこ吹く風に聞き流すギンにとって,ルキアの意志がこれ程迄に絶対だとはルキア本人は微塵も気づいてはいない。自己評価の低いルキアは他人からの自分への評価をいつだって低く見積もるのだ,それが恋人同士の関係であっても。でも,そのことを訂正するつもりはない。むしろギンは一向に構わない。
ルキアの価値は己だけが知っていれば良いのだし,ルキアの自身への過小評価がギンに対しての想いを強める要因になってくれるのなら好都合である。ましてやルキアの方が余計にギンに惚れているのだという甚だしい勘違いをしていてくれるのなら尚更である。(傍から見てもギンの方がルキアに惚れ抜き,溺れきっていることは明らかであるというのに)
ギンはそっぽを向いた口元がこの上もないほど幸せに笑んでいることをルキアに見られないように空を見上げ,ため息を吐くふりをした。

「じゃあ,今日のデートは手ぇつないでな」

「恥ずかしいからやだ!」

「え――――っ?なんで?」

あまりの即答ぶりに更にむくれる恋人にやれやれとルキアは肩を竦める。
なんとも子供っぽい事この上ない。年齢も身長も遥かに上の男を苦笑交じりに見上げながらルキアは小さな手を伸ばす。隊務中だがこのくらいの我侭はまあよかろう。隊舎廊を渡り切る間くらいならば…
ギンはその手を大きな手のひらで包むようにしっかりと握り満足気に笑った。全く現金なものである。
しかし,不意にギンはにやけていた表情を引っ込め怒ったような顔を作るとルキアを軽く睨む。でも手はしっかり握ったままである。

「なあルキアちゃん,ボクら恋人同士なのにそないないけずなことばっかり言うんやったら,ボクかてたまにはガツンと…」

「ガツンと,何だ?」

ふふんと瞳を細めた上目遣いでルキアはギンを見上げる。

「くちごたえくらい…するで…」

一瞬,視線を泳がせ言葉に詰まったが,わざとらしく頬をかきながら小声で答えるギンにルキアは鈴を振るように笑った。

「おまえは意外とヘタレだな!」

珍しく頬を赤くしているギンの頭に背伸びしたルキアの手が優しく触れ,くしゃくしゃと銀髪を乱した。それだけで安心した子供のようにギンは再び蕩けそうな笑みを浮かべた。


あぁ…本当にどうしようもないほど満たされてしまう幸福な時間。
たあいなく掌中で転がされているような不満足な譲歩でも,この手のひらの温もりだけであっさりと上がる白旗はまさしく極上の敗北感。

これこそ『惚れた弱み』の醍醐味というものに違いない。


           〈END〉


あとがき 
「恋に堕ちるなんて狂っていたとしか思えないよ」とスヌーピーが言っていたような気がするんですよね。彼は失恋を忘れるためにやけ食いして最後に「恋の終わりは思い出が2つ3つと胃拡張か…」と呟いていたような(←うろ覚え)あはは,内容とあまり関係ないあとがきになってしまった。
でも,最後にひとつ,うちのギンはルキアに対してだけはちょっと可愛いところあるんですよw


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