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クリスマスの天使はおたまを持って微笑む

水炊き,すき焼き,ちり鍋,しゃぶしゃぶ,カニ鍋,あんこう鍋,モツ鍋,ふく鍋,おでん,ねぎま鍋…鍋の種類は数あれどクリスマスイブの夜,市丸隊長の私邸で振る舞われる鍋は果たして?
今宵は待ちに待ったクリスマスイブ。街を行き交う見知らぬ人同士でさえなんとなく微笑み合える聖なる夜――


瀞霊廷,護廷十三隊三番隊隊長市丸ギンの私邸は昼過ぎから恋人の朽木ルキアを迎えて甘ったるいリア充の薫りが…微塵も漂ってはいなかった。

「やはり,大勢でつつくとなると寄せ鍋が一番だな,ギン」

「そやね…」

ボウルに入れた鶏つくねをすりこぎで練り練りしながら,機嫌よく朽木ルキアは市丸ギンに声をかける。肩までの髪を三角巾でつつみ,たすき掛けして袖をまくった死覇装の上に白い割烹着をつけているルキアはとても可愛い。いつもならふたりで台所に立って料理を作るというだけでギンの機嫌はうなぎ上りなのだが,心なしか返事に精彩がない。

「何だ。気のない返事をしおって」

「う―……」

ギンの方に視線を向けたルキアの瞳はすぐに柔らかくなる。
返事は気がないけれど,ギンの手は休みなく動く。すでに白菜と青ネギは手際よく洗われ,斜め切りにされ,飾り切りを入れられた椎茸とともにざるに並べられている。
続けてとりかかっている花型のにんじんは型抜きを使わずに,包丁で器用に細工する手捌きをルキアは感心したように見つめる。ルキアのためなら気はのらなくてもやることはきっちりやるのである。まあ,不機嫌の原因などひとつしかないのでルキアは少しだけ優しい声で話しかける。

「何だ,まだへそを曲げているのか?」

「だあってぇ…クリスマスイブなのに何でボクんちで鍋パーティーせなアカンの?しかも大勢で…」

「この一年の感謝を込めてお世話になった方たちにお礼をするためと何度も言ったであろう。それにおのおの方とて他に予定がお有りならかまわないと予め言っておいたのだ。兄様や浮竹隊長などご多忙にもかかわらず出席してくださるのだぞ!感謝せねば」

「………」

鳥つみれ団子をくりくりとまるめお鍋で下茹でを始めるルキアの可愛らしい手つきを見ながらギンは小さくため息をつく。
これは言っても理解しないだろうけれど,隊長,副隊長クラスの者に,公的なものであれ私的なものであれクリスマスの予約が殺到していないわけがないのだ。しかし,それをすべて蹴ってまでギンの私邸での鍋パーティーに出席する理由,感謝に対する律儀な返礼?断じてそんなわけはない!

ルキアが目当てに決まっているではないか…

まったくこの鈍感天使は…いや死神か。
そもそも今回の出席メンバーは偏りすぎているのだ。
六番隊隊長朽木白哉,同じく副隊長阿散井恋次,十三番隊隊長浮竹十四郎,三番隊副隊長吉良イヅル,四番隊第七席山田花太郎,十二番隊 阿近…イヅル以外,下心丸出しのメンバー構成ではないか!更木剣八が遠征で留守なのだけがせめてもの救いだ。
それに,参加女子が主催者であるルキアしかいないのも大いに問題がある。
最も女子がルキア以外いないのもまあ分からないでもないけれど…
なにしろルキアの回りにいる女子たちのレベルが高すぎ,そして立場が忙しすぎるのだ。
言うまでもなく五番隊副隊長雛森桃,七番隊副隊長伊勢七緒はともに隊長とともに各隊主催のパーティへ出席。
十三番隊第三席虎徹清音が出席できないのは同三席である小椿仙太郎とともに各方面に十三番隊隊長の浮竹が出席できないことへのフォローにまわっているからである。
そして,ギンの幼馴染の松本乱菊が出席しない理由はミニスカサンタコスプレでトナカイガールのコスプレをした四楓院夜一とともにあちこちのパーティー会場をまわるためらしい。

「イブの夜に寂しい非リア充の青少年からプレゼントをもらってア・ゲ・ル

というコンセプトで…
とんだ強奪サンタもあったものだ。檜佐木修兵はその荷物(貢物のプレゼント)持ちに駆りだされたとか…聞くところによると二番隊隊長も(こちらはコスプレ要員でもある)
何にせよ,防衛ラインが期待できない以上,飢えた獣たちから己の天使を孤軍奮闘で護りぬかねばならないのだ。
本当になんて夜や!!とギンは叫びたいのが本音なのである。
さまざまな思惑が飛び交うであろう鍋パーティーの支度を楽しげに行いながら,ルキアはギンに声をかける。

「だいたい用意ができたな。後は兄様と浮竹隊長からいただいた高級和牛と魚介類を直前に出せばよいだけだから,私は箸や椀の支度をしよう。座卓とコンロの用意を頼む」

「はいな…」

ギンは心なしか肩を落としながらもルキアの指示を遂行するために座敷に向かった。



しばし後,ルキアは大きな塗りのお盆に箸と箸置き,れんげ,椀をのせ客用座敷に運んできた。支度が整いつつある座敷の様子を見てルキアは首を傾げる。

(……?)

そこに用意されたものを見てルキアは不思議そうにギンに問いかけた。

「ギン,なぜ鍋を2つも出してあるのだ?今回の参加人数は8人なのだから1つで十分であろう」

「あいつらの唾液の入った鍋なんかルキアちゃんに食べさせられんやろ!鍋に箸入れる前にあいつらの箸の熱湯消毒用や!」

「……仕舞え!たわけ!」

「じゃあ,この一人用小鍋でルキアちゃんの食べるぶんだけは別にして…」

「おまえが使え!!」

取り箸を用意することで何とか鍋を引っ込めさせたルキアであった。



ギンの私邸の中で最も広い客用座敷に大きめの座卓が据えられ,卓上コンロの上に置かれたうさぎ模様の大ぶりの土鍋からはさまざまな食材が交じり合った食欲をそそる香りが漂っていた。しかし,その暖かで家庭的な甘い湯気の香りとは裏腹に鍋をとりまく空気はバチバチと殺気立っている。

「ルキアちゃん,はい♪いっぱい食べてな」

「隊長,何やってんですかぁ!一瞬で肉が全部鍋から消えましたよ!!」

「ルキア,ほら海老と牡蠣だ!ポン酢が良かったか?柚子胡椒のほうがいいか?おっ,はまぐり開いたぞ!」

「ルキア,この豆腐は朽木家お抱え料理人の手作りだ。絹ごしが好みであったな」

「朽木,野菜はどうだ?このよく煮えた白菜は甘いぞ,椎茸も肉厚で味が染みていて食べごろだ」

「そこの3人!ルキアちゃんのお世話はボクがするんやから,気安う鍋に触らんといて!」

「ルキア,酔い潰される前にこの薬を飲んでおけ」

「変なものルキアちゃんに飲ますなや,阿近!」

ぎゃーぎゃーと騒ぎ立てる鍋奉行たちを尻目にルキアはおもむろにおたまを取り,高く振り上げると鍋のふちに打ち下ろした。

カンッッ!!

裁判官が静粛を促す木槌のような,やけに厳かな音が座敷に響いた。
音の衝撃に当てられたのか全員が口を噤むとルキアは静かに横に置かれた椀を持つと鍋から肉,魚介類,野菜を彩り良く取り分けた。そして,その椀を差し出した先は――

「さあ,花太郎」

「えっ,あ,ありがとうございますルキアさん」

真っ赤になって照れる花太郎に軽く微笑むとルキアは手に手に椀とれんげを持って呆然とするその他を見つめ口を開いた。その視線は恐ろしく冷たい。

「自分で取ったものは各自で食されてください…この後は私が仕切ります。何か仰ることはございますか?」

花太郎以外全員『イエス,マム。すみませんでした…』

(とほほ…僕だけは悪くなかったような気がするんだけど…)

お椀を持っていなかったイヅルも二番目によそってもらえました。



和やかとは行かぬまでもそこそこ平和に鍋の終わりが近づいたのだがまたもや…

「〆は雑炊に決まっとるやん!」

「うどんこそ至高!」

「ルキアは切り餅が好きだろ?」

「朽木,きりたんぽ食べたことあるか?」

「僕,くずきり用意してきたんですが」

「この葉を舐めると消化が促進されるぞ。女には効かないからルキアは触るなよ」

「あはは,阿近さん,それってまさか落語の『そば清』オチじゃあ?」

「……」

一同(…なぜ黙る?)

カンッッ!!

「全員却下!!」

ルキアの厳かな一言で,〆は何故かやや大ぶりの白玉が鍋に入りました。


みんなが(無理矢理)帰った(らされた)後――
並んで後片付けをしながらギンはルキアに上機嫌で話しかけた。

「案外,美味しかったなぁ白玉鍋♪さすがルキアちゃんやね」

「うむ…アクシデントの産物にしては美味だった」

「え,あれ思いつきやったん!?」


後片付けを済ませてしまったふたりはルキアのクリスマスプレゼントの赤と紺色のうさぎ柄のお揃いの半纏を羽織って,庭に面した縁側に座り星を眺めていた。

「星が綺麗だな,ギン」

「うん。これ,暖かいなぁ。ルキアちゃんありがとうなぁ」

「意外と似合っているぞ,ギン。それにしても皆さん満足してくれてよかった」

「まあ,ルキアちゃんが楽しかったんならよかったわ」

「ふふふ,たまにはこういうクリスマスもよかろう?」

ルキアの頬に纏わる白い息がとても綺麗でギンの顔に浮かんだ苦笑いも溶けてしまいそうになる。

「あくまでたまにならなぁ100年に一度くらいでええ。それより,あんな…ルキアちゃんコレ…」

いつになく歯切れの悪いギンの言葉。ゴソゴソと懐に隠していたらしいものを取り出す。

「ん,何だ?」

無邪気に振り向くルキアの目の前に差し出された大きな手の上には,白と銀色の薄紙に包まれ紫のサテンのリボンが結ばれた小さな箱が乗っていた。
ルキアの大きな瞳が不思議そうにぱちくりと瞬かれる。

「クリスマスプレゼントなら,先ほどもらったと思うが」

「それとは別なんや。あんな…そのいわゆる給料3ヶ月分ってやつや」

「なんだと!そんな高価なものを受け取るわけにはイカンぞ!」
ああ,もう鈍いにも程がある。

「もう,察してや!!ルキアちゃんボクのお嫁さんになって下さい!!」

「えっ!?あっ…はい…」

「オーケーなんやね!!やったぁ!!!」

「いや,今のは,はずみで…」

「えええええっっ!?いやなん?」

「イヤじゃない!たわけ!!はずみではなくちゃんと言う!だからおまえもちゃんと言え!」

ギンはぴしと居住まいを正し,ルキアの小さな手の上にのせた箱ごと大きな手で包み込んだ。開眼した薄蒼い瞳がまっすぐにルキアの藍紫色の瞳を見つめる。

「ルキアちゃん,愛してます。ボクのお嫁さんになってください」

「最初から真面目に言え!答えはYESだ!!」

「ルキアちゃん……」

しっかり抱き合ってキスしたときは大真面目でした。


ふたり並んで縁側に座って空を眺めるのは先ほどと一緒。でもルキアの左手の薬指にはきらきらと光る指輪がある。中央に大きめのパープルダイヤが据えられ,その周りに咲き乱れる薔薇をイメージしたのか中央よりも小さめなピンクダイヤとホワイトダイヤモンドが幾つもあしらわれ,絡み合う蔦のようなデザインのプラチナの台座にはめ込まれている。品が良くて可愛らしくルキアの指にそれはよく似合った。しかし,ルキア的にはちと気になることがあった。宝石の価値にそう詳しいわけではないがこれは相当…
ルキアは意を決したように口を開いた。

「今後の生活のために敢えて無粋なことを聞くが,この指輪は…」

「大したことない,ほんの150万くらいやから」

「そうか…」

ルキアは安心したように息を吐いた。
なるほど高価ではあるが自分のために,そう無茶な買い物をしたわけではないようだ。

(ドルでやけどね♪)

続いたセリフはギンの胸の中だけでいたずらっぽくつぶやかれる。
ルキアは空を見上げて歓声をあげる。

「ははは!ギン,お約束みたいだな。初雪が降ってきたぞ♪」

「あは,ホンマやホワイトクリスマスやね」

「ああ,最高のクリスマスだ!」

給料3ヶ月分どころか豪邸が一軒建つ指輪を薬指にきらめかせながらルキアは幸せそうに笑った。



        END


あとがき
かなえ様―仕上がるまでお返事もかけずごめんなさいですm(_ _)m
でも,やっとやっと,お鍋ネタでかけました!いつも優しい元気づけられるコメントをありがとうございます,そして読んでくださった皆様にも感謝です,メリークリスマス(愛)


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