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哀しみのカタチ

藍染惣右介,東仙要とともに市丸ギンが尸魂界を脱出し(BLEACH20巻)虚圏に拠点を移してから暫く後の物語。超SSです。
十刃に任命されず腐っていたルピ(26巻表紙)がひとり夜空を眺めるギンのもとを訪れ…



 見渡す限り海原のように広がる虚圏の砂漠はこの世界を冠する言葉のままに空虚だ。
この虚しい世界は,到底,あの少女がお気に入りであった童話のように美しい井戸など隠しているわけもない。それでも,偽りの永遠の夜が支配するこの世界でも月は輝いている。孤高で誇り高いあの少女のように…

 砂漠の中心に,主そのもののように傲慢にそびえ立つ広大な虚夜宮の中でも最も高い建造物である中央宮の塔の上,純白の長衣を身につけた長身痩躯の銀髪の男が佇み夜空を見上げていた。
いつも全く表情が変わらない,常に張り付いたように維持している人を喰った笑みをたたえた,その顔が見えない背中の方がこの男の感情を雄弁に語っているような気がする。
それにしても,なぜなのだろうか。月明かりに照らされているというのにその広い背中に感じる寂寥の陰は…センチメンタルなど,この男には全くもって似つかわしくないというのに。
別に彼の内情を理解したいわけでもないけれど,弱みのひとつでもわかれば…

「君か…ルピくん」

 後ろを振り返りもせず誰何される。
今は十刃を束ねる尸魂界の裏切り者,虚圏の主藍染惣介の副官にして懐刀,市丸ギン。相変わらず一分の隙もない。
十刃候補の一人であったヴァストローデの破面,ルピがつまらなそうに柱の陰から現れた。霊圧も気配も完全に消し去ったと思っていたのに。

「こんばんは,市丸副官」

振り向いた上司の顔には先ほど背中に感じた寂寥など微塵も匂わせないいつもの嗤いがあった。

「なんか用か,十刃落ちのルピくん?一人で泣きに来たん?それともボクに慰めてもらいとうて来たん?」

 舌打ちを無音に留めたのは我ながら褒めてやりたい。
張り付いたような笑みを浮かべたまま痛いところを突いてくる。結構親しくしている方だと思っていただけに,内心わずかに期待しないでも無かった気持ちを見抜かれたのも腹立たしい。

「はっ,誰がですか。あんなポジションいつだって取りにいけますよ。あんな奴らより実力はボクのほうが上なんですから」

「へえ,それは楽しみやな。せいぜいボクの期待を裏切らんといてや」

言葉とは正反対の全く期待していないという口調に,カチンと来る。どうしてこうもこの男は人の神経を逆なでするのが上手いのだろう。

「市丸副官はいつも笑っていますね。悔しいなんて思ったことないんじゃないですか?」

「そやね。悔しいなんて思うたことないなぁ。ボク天才やから」

カッカしているルピに比べて,ギンは気分を些かも害されてはいないようだ。

(っ…ムッカつくなこの人…)

 確かに尸魂界の死神養成校である真央霊術院にて500年に一人の天才と呼ばれたこの男に挫折など無かったかもしれないが,まだほんの少しだけ慰めを期待していたルピはますますカチンと来た。

空気読めよ,チクショウ…

「じゃあ,貴方には哀しいことなんて何もないんですね」

思わず上官に対して嫌味な口調になってしまったルピの言葉に,ギンは一瞬黙った。

「…!?」

今の言葉のなかの一体どこに黙る要素があったのだろう?この口先から生まれてきたかのような上司に。暫しの沈黙の後ギンは独りごちるように呟いた。

「哀しい話はキライや…」

「え…」

先ほど背中に感じた陰がわずかにギンの端正な顔立ちを彩る。

「ボクかて深い哀しみに沈んだことくらいあるで」

 耳がおかしくなったのかなと錯覚するほど意外な返事。この傲岸不遜な嗤い仮面に哀しみと言う言葉は何の冗談かと笑ってしまいそうなほどらしくなかった。
ルピは興味をひかれ聞き返した。

「はぁ…どういう哀しみなんですか」

率直な問いかけをはぐらかす様子もなくギンは再び夜空を見上げ言葉を続ける。

「ボクの哀しみは,ちっこくて黒髪で綺麗なすみれ色の目ぇしとるんよ…」

「…なんだか僕に似てますね」

哀しみにカタチなんかあるのかとルピは首をかしげながらも言葉を返した。かすかな期待を込めて。
ギンは驚いたような顔でルピを見た。

「そういや,ほんの少しだけ似とるかなぁ。思いもしてんかったわ」

 ルピは少しむっとした。口説かれているのかと思ったのだが違うようだ。
十刃候補として目をかけてもらっているとまではいかないけれど,しょっちゅう話しかけられ,時には軽口を交わし合える間柄を内心誇らしく思っていたのに。

「どうしてその子が哀しみなんです?」

「その子,ボクのこと大キライやったんや…」

「なるほど…(凄く納得できる)」

ギンとルピは並んで永遠の夜の空に輝く月を見上げた。あの月にこの男は誰の俤を見ているのだろう。

「市丸副官,その子のこと好きだったんですか?」

「……」

今度の問いには返事はなかった。だからこそわかってしまう。

は…ザマミロってやつだよね。

煌々と輝く月がぼんやりと滲む。

僕の哀しみは綺麗な銀髪で背が高くていつも皮肉に嗤っていますよ…

 言いたいけれど言えないし,言わない。だって,自覚もなしに僕をかまっていた貴方はとても狡い人だから…だから僕も狡いままでいます。
哀しみとでさえ,この人と繋がることは出来ない。

あぁ…本当に
哀しみは孤高の月に似ている


        END


あとがき
出会いは花。いつの時代も心に咲いた夢の花。ならば別れとはなんなのだろう…
いづれ出会うために残った種だと思いたいのです。


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