ため息の行方

“自由で強くて優しい子を、 凛としていると言います。 凛とした女の子におなりなさい。 凛とした…… 近頃いないのです。” by 阿久悠

私とギンにとってあなたは永遠に凛とした女の子です。あなたとギンに出会えたことが私の人生への最上の贈り物のひとつ,我が至高の天使(死神だけど)ルキアちゃん誕生日おめでとう。


真夜中にふと目覚めたルキアは,隣にギンがいないことに気づき…
貴方の不在は私にとても贅沢な淋しさをくれる
それは うんと楽しく過ごさなければと全力で強がりたいくらいの極上の時間なのだ

 真夜中,ルキアは寒さではなく身体への違和感でふと目を覚ました。
なんとも不思議な覚醒であった。与えられる刺激ではなく,常にもたらされていた安心感の不在に無意識に身体が先に気づいたとでも言おうか。ルキアは小さく身じろぎし,状況を確認した。布団のなかが広い。
眠りに落ちる前にしっかりとルキアを抱きしめていた男が夜具の中だけではなく屋敷のなかにもいないことをルキアは素早く霊圧を探って確かめる。
冷えないようにとの配慮であろうギン自身の夜着でルキアは包み込まれ軽く温かな布団をかけられていた。しかし,その下はやはりと言うか…
ギンと同衾する夜はいつものことではあるがルキアは夜着を身につけてはいなかった。いや,身につけたままでいられないという方が言い方として正しいだろう。
 無論,ルキアは営みの後,素肌のまま眠りにつくような嗜みのないことは好まない。しかし,共に過ごす夜は何度も何度も求められ最終的には意識を飛ばされてしまうためギンと迎える朝はたいてい一糸まとわぬ姿で目覚めるのが常であった。
それでも,今までは真夜中に目が覚める様なことはなかった。
肌の感触はさらりと乾いている。事後の始末はされているのはいつものことだが,今はそれもひどく羞恥を誘った。ルキアは枕元にたたまれている己の夜着に手を伸ばしたが,ふと思い直したように手を止めると,その身体を包み込んでいたギンの夜着にそのまま腕を通した。無論ルキアには大きすぎるので大雑把に丈を調節してから腰紐をゆるやかに結ぶ。

(どこへ行ったのだろう…)

 なんとも癪に障る心もとなさが居心地悪かった。
普段は安心できる人肌に包まれているからなのだが,ルキアに自覚はない。
時間とともに頭が冴えてくると,現在進行している三番隊と十二番隊席官たちを中心として構成された中規模虚の巣の討伐計画が思い出された。先日,その責任者になってしまったというギンのぼやきのような話。

『ボクんとこはええけど,十二番隊入りたての荒くれもんたちが功を焦って抜け駆けしようとかするから抑えんの大変なんや』

 十二番隊隊長更木剣八は実力も人望も兼ね備えている傑物だが,戦略や戦闘隊形の編成などの指導力はからっきしなのだ。彼を切り込み隊長(止めても無駄)にした荒くれ者たちを中心とした力で踏破する攻めの布陣で,更にその陣形を囲むように鬼道でサポートする戦略を練らねばならないため十二番隊と組む仕事は他隊の隊長,副隊長の負担が大きくなるのである。そうなってくると普段,仕事をサボることで有名である三番隊隊長も例外ではない。
それに珍しいことにギンは剣八のことは存外気に入っているらしく,ぶつぶつ言いながらもそれなりにフォローにまわっているのである。
 おそらく,剣八では対処のしようがない(そもそも荒事以外出来ない)トラブルが起こり,虚の巣に火急の対応策が必要になる事態が起こってしまったのだろう。そのための深夜の緊急呼び出しに応じたものの,眠る(失神ともいう)ルキアを起こすまいと気遣い,何も告げずに出かけてしまったに違いない。

(書き置きの一つもしていけば良いものを…)

 ルキアは枕元の衣装箱から,やはりギンの綿入れ羽織を手に取りふわりとはおると立ち上がった。
常日頃から夥しい奇行(主にルキア関連で)の数々で,隊長の威厳を著しく落とす男ではあるが,腐っても泣く子も黙る護廷十三隊三番隊隊長である,心配など不要だ。そう,自分は断じて欠片も心配などしていない。では,この寂寥感は何なのだろう?
ぶんぶん!ルキアは小さな頭を振った。
今の考えはなしだ,寂しさなど感じるわけがない。共に家にいる時は鬱陶しいほどまとわりついて離れない男のお陰で自分は趣味の読書もお気に入りの小物を愛でる時間もろくにとれぬほどプライベートな時間を阻害されているのだ。ここは少々早く起きすぎてしまったのだと思って貴重な自由時間を満喫すればよいのだ。そう,それがいい。
ルキアは趣味部屋である『チャッピーのお部屋』に足を向けた。


 居間に敷かれたふわふわのラグマットに置かれた大型のビーズクッションの上でルキアは白い狐のぬいぐるみを抱きしめたまま膝を抱えるように座っていた。
一部屋をチャッピー部屋にしてしまうほどのうさぎ好きのルキアが大切にしているコレクションのなかで唯一の狐のぬいぐるみ,それは,とあるエピソードのせいでルキアにとって,一番大切なギンからの贈り物の品だった。
もちろん持ち出してきたのはそれだけではない。クッションのまわりにはルキアを囲うように,部屋から運んできた大小様々のチャッピーぬいぐるみが散らばり,お気に入りの数冊の絵本も大好きなページを開いたまま散乱している。
読みかけの小説は栞を挟んだ場所からずらすこともなく積み上げられて床の上だ。
眠いわけでもないし,頭は冷えているのに文字が頭に入ってこない。

(どういうことだ…)

 張り切って用意したお気に入りの品々は,もう夜が明けそうであるというのに一向にルキアを楽しませてはくれなかった。夜食に用意した紅茶とクッキーも手付かずのままお茶はすっかり冷めてしまった。気がつけば時計ばかりを見上げ,その焦れったいほどの進みの遅さにため息が出る。なんなのだろうこの体たらくは…

(これでは子供のお留守番ではないか…)

 本当に,最初は元気に留守番の自由を謳歌していても次第に寂しくてたまらなくなって,べそをかきながら両親の帰りを待つ子供のようだ。最初からカラ元気であったぶん,むしろ余計に始末が悪い。使い道に困るひとりの贅沢な時間,切なさの足音が胸のうちに響く。強がりの燃料はとうに空であった。
 ルキアは腕の中の狐のぬいぐるみをじっと見つめた。
ギンにそっくりのそのぬいぐるみの笑顔が少しだけ憎らしくてルキアはコツンと小さな拳で白狐の頭をたたき,思い直したようによしよしと撫でるとぎゅうっと抱きしめた。


半時後――
控えめに玄関の鍵を開ける音が微かに響いた。寝ているルキアを気遣ってだろう足音を忍ばせているが,肌に馴染んだ霊圧をルキアは即座に感知した。
相手も居間の明かりに気づいたのか廊下を早足に歩む音と同時にドアが開きギンが現れた。

「ルキアちゃん,起きとったん?それに…」

ひっくり返したおもちゃ箱に近い状態の居間を見つめ,ギンは不思議そうにルキアを見た。

「むぅ…ち,違うぞ!たまたま早く目が覚めてしまった故,有意義に自由な時間を楽しんでいただけだ!散らかしてしまったのは…その…悪かった…」

ギンは何かを察したように足元のぬいぐるみや絵本を避けながらルキアに近づくとストンと目の前に座った。

「そないなこと気にせんでええよ。よお寝とる思うたから説明もせんと出かけてもうたボクが悪かったし」

 ギンの体から血の臭いはしない。きっとルキアを気遣って帰る前に隊舎で着替えを済ませてきたのだろう。ただ霊圧だけが戦ってきた後のなごりなのか高揚し,やや荒ぶっているくらいだ。疲労の色を欠片も滲ませていない様子を見ると思った通り,ギンにとっては苦戦でも何でもなかったらしい。

「例の件での緊急呼び出しであったのであろう?」

「ん…前話した十二番隊の新入り共が勝手に虚の巣に突入しおってな。緊急に呼び出されるわ,たててた奇襲の計画はオシャカになるわ。おまけに新入りの救助しながら虚の殲滅せなアカンかったからもう,てんやわんややったで。完全に叩くとこまで行かへんかったけど大元は潰したからとりあえず大丈夫や。説教は更木はんに任せたし,まあ,死人が出んかっただけよかったわ」

「そうか…」

無事でよかった,と続く言葉をルキアは途中で止める。そこらの虚如きに傷つけられるほど隊長の肩書も実力も安くないことは理解している。だから自分は欠片も心配などしていない。家族の不安や杞憂,そんなものは重責にあるギンにとって負担にしかならない。

「もうルキアちゃん,つれないんやから。もう少しなんか無いん?心配だったとか淋しかったとか…!?…泣いとるん?」

不服そうな声が不意に戸惑ったような声に変わる。

「何を言って…」

視界がうるりと歪む,雫が抱きしめていたぬいぐるみの上にぽたりと落ちた。

「そないにボクのこと心配やったん?」

「馬鹿なことを,おまえの実力は知っている。心配など不要であろう…」

ギンはルキアの姿をまじまじと見た。ギンによく似た白狐のぬいぐるみを抱きしめ,大きすぎる夜着に,丈の長すぎる羽織姿の迷子の子供のようなルキアを…

「ボクの夜着と羽織きて寝ずに待っとるくらい寂しかったん?」

優しい問いかけにルキアは慌てて頭を振った。

「断じて違う!コレは近くにあったからたまたま着ただけで……ただ…」

「ただ?」

「目が覚めておまえがいないことに気づいた時,ひどく寒かったのだ…」

 これは嘘だ,寒さは感じなかった。でも全くの嘘でもなかった。寒さ以上に冷やりとした感覚,そこに絶対にあるべきものの不在,それがルキアの目を覚まさせたのだから。
それでも,ギンの温もりが残っているような気がして自分のではなくギンの夜着と羽織を着て待っていたなどとルキアは意地でも言いたくはなかった。バレバレなのは承知の上だ。

「そないに淋しゅうて不安な思いさせてもうたんやね。かんにん…」

「だから,淋しくなど…」

ギンは答えずにルキアを抱きしめた。
冷えた野外から帰ってきたばかりだというのにそのぬくもりは暖かかった。
失うことの辛さを,苦しさを,知っていると思っていた。共に暮らし助けあって生きてきた家族たちを失う恐ろしさを知っていると。だから,痛みには決して慣れることはなくとも,毅然とした態度で立ち向かえると思っていた。己は強くなったのだと。
それなのに,たった一夜の不在ごときで,何という体たらくなのだろう。
湧き上がる不安を理性でねじ伏せられないほど,この男をかけがえのないものだと思っている自分にルキアは気づく。悔しいのか嬉しいのかルキアは駄々っ子のようにギンの胸に顔を押し付けいやいやと小さな頭を振る。

「私はおまえのせいでこんなにも弱くなってしまったぞ…たわけ…」

「ええよ…その分ボクが強うなるから…ルキアちゃんのこと守るから」

「たわけ…たわけ…」

頭を撫でられている,あやすように背をさすられている。どうしてこんなにもこの男の腕の中は安心できるのだろう。
優しい夜に包まれているようだ,ルキアはふとそう思った。


寝室に戻り,一つ布団のなかギンが抱き寄せたルキアの肌は冷たく静謐で哀しい香りがした。それは確かな愛の香り,己を思って纏った香りだと思うと,こみあげる愛しさで胸が痛くなる。

「すぐに熱くしたげるわ…」

涙を一滴残らず吸ってあげたかった。
切ない想いを味わうようにギンはルキアの眦にくちづけた。



                     END





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