月がとっても青いから

過去に書いた超SS投下いたします。タイトルは懐メロの中でも大好きな曲からです。


           月がとっても青いから


(今日の私はとことんついていない…)

 朽木ルキアは自分の傍らを歩く同伴者にわからぬように胸のうちでひとりごちながら小さく息を吐いた。
 残業で遅くなってしまった隊舎からの帰り道,偶然(?)出会った三番隊隊長市丸ギンに夜道は物騒だと無理矢理送られることになってしまったのだ。
ただでさえ残業を押し付けられて気分は最悪であったのに最後に大苦手のこの男に会ってしまうとは…それにこの男に送られる方がよほど。
うんざりとした顔を隠さないルキアにギンはさして気分を害した風もなく笑いながら問いかける。

「相変わらずつれへんなあ。たまにはボクに付き合うてくれてもええんやない?」

「あなたなら,付き合ってくれる方に不自由しないでしょう。なぜ私などに構うのです?」

問いかけに問いかけで答えながらルキアはつくづく物好きな男だと思いながら隣を自分の歩調に合わせて歩く長身の性悪狐(と心のなかで呼んでいる)を見やる。

 朽木家の飼猫と陰口を叩かれながらも,四大貴族の威光を恐れ大抵のものは自分に近づいてすら来ないというのにこの男は初めて出会った時から違っていた。最も迷惑千万な相手であはあったのだけれど。
会う度に馴れ馴れしく声をかけてくる。皮肉や嫌味をひどく優しげな口調でささやき,時にセクハラまがいのことまでしてくる。

 確かに隊長職であるこの男が朽木家の威光など気にかける立場でもないが,こんな何のとりえもない自分にちょっかいを出して何が面白いのだろう?

 自分の義兄である朽木白哉と同時期に三番隊隊長に就任したこの男は,ひょっとしたら義兄に対して何らかの葛藤でもあって憂さ晴らしに自分に手を出してくるのだろうかと思った時期もあった。しかし,ギンはルキアをからかう時以外白哉の名を出すことは殆どなかった。少なくとも、朽木家令嬢としての立場を揶揄するような言動はあっても義兄を愚弄するようなことは一度たりとも口にしたことはない。それにギンの隊長としての評価は決して義兄に劣るものではなく,むしろ年が下である分に加え,出自のことを鑑みれば若干高いと言っても良いのではないかとルキアは不本意ながら思う。そんなルキアのもの思いなどどこ吹く風でギンは飄々とした口調で問いに答えた。

「なんでやろね。ボクにもよおわからんわ」

「そんな漠然とした理由でからかわれるのは割りに合いません」

ため息のように吐き出されたルキアの本音にギンはくくっと笑った。

「強いて言うなら似とるからかな……」

「似ている……?」

「ボクと…」

 銀色の髪,切れ長の細い目,人を喰ったような嗤いをたたえた薄い唇,どこを見てもギンと自分には共通点など見当たらない。性格だって失礼ながら、まるで正反対だ。反論しようとするよりも早く隣を歩く男の口から続いた言葉がルキアの唇の動きを止めた。

「キミは涙流さんと泣きながら生きとる……なのに現実から眼ぇそらさんでまっすぐに立っとる……ボクも以前はそやった。でも,今は……」

 不意に大きな手がルキアの小さな手をそっと握った。
ハッとしてギンを見上げたルキアをギンはじっと見つめ返す。
軽薄な笑みが消えた表情、うっすらと開眼したギンの淡い淡い空色の瞳,あまりにも澄み切った薄青…しかし,ルキアはその瞳の奥の奥に,暗い深淵の闇を見たような気がした。
闇を凝視するあまりに闇に取り込まれた瞳…闇の向こう側にある何に魅入られてしまったのか?
その先にはいったい……いけない,行ってはいけない,行くな!

「……市丸…ギン?」

 たまりかねて問いかけるように名を呼んでしまった。平隊士が隊長を名前で呼びかける非礼にさえ気づかず,ルキアはギンの言葉を待った。何故なのかわからないがどうしても答えが聞きたかった。
それはふたりをつなぐ微かな光…そうであれば…そうであるのなら…
縋るようなルキアの視線にギンの真剣な顔がふいと緩んだ。笑みによく似た眇めた瞳,口元に浮かんだ人を喰ったような嗤いはいつものギンのものであった。

「だから…キミの泣き顔見とうなるのかもしれんな。笑顔はもっと見たいけどなぁ…」

はぐらかされたと思った。ルキアの美しい菫の瞳に微かな落胆と失望を見たギンはすいと視線をそらし夜空を見上げた。

「ルキアちゃん,お月さん綺麗やで…そないな顔せんと見てみ」

何故か涙がこぼれそうになった瞳で見上げた空に輝く満月は冴え冴えと蒼く美しかった。

「月がとっても青いから遠回りして帰ろう。
あの鈴懸の並木路は想い出の小径よ。
腕をやさしく組み合って二人っきりで さぁ帰ろう……」

不意にギンの唇から歌うような言葉が漏れた。節はついていない詩を読むようにギンは口ずさんでいた。

「何ですかそれ?」

「現世の流行歌や。詩が気に入ったから覚えてしもたんや」

「……遠回りはしませんよ」

「いけずやなあ」

そう言いながらもルキアはギンの手を振りほどかない。
その歩調は先程よりもわずかにゆっくりであった。ギンの口元に微かに笑みが浮かんだ。

キミは月だけ見つめていてボクの常闇など見ずに……


月がとっても青いから 遠回りして帰ろう……
もう今日限り逢えぬとも 想い出は捨てずに
月の雫に濡れながら
君と誓った並木道 二人きりで さぁ帰ろう……


               〈END〉


60年前にヒットした歌なのですよ。
死神の人生にとって何ほどの時間でもない60年…ギンは現世出張中にふと耳にした、などと思いながらずいぶん前に書いた作品です。曲調は明るいのに哀愁を帯びた歌詞、なんというかギンが気に入りそうな曲だなと思えるのです。







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