優しき夢の護り人

『哀しき花の護り人』と対になるおはなしです。ギンとルキアはすでに結婚してらぶらぶ夫婦です♪
瀞霊廷を見下ろす大樹の上で守り続けたルキアへのギンの想いはどのように実を結んだのでしょうか?
すうすうと言う規則正しい寝息が聞こえる。
ルキアは温かく寝心地のいい胸の中で珍しく眼を覚ました。寝る時は並んで寝ていたのに,いつの間にかギンの腕の中に抱きしめられている。
ルキアはくすりと笑った。何時だってそうなのだ,眠りにおちてふと気がつくとルキアは必ずギンの腕の中にいる。
それは夏でも冬でも変わらない。

一度,わざと不満げに訊いたことがある。

「私はおまえの抱き枕か?」

「そうや,抱き枕ないとボク眠れへんのや。」

しれっと答えるギンにルキアは意地悪く言い募った。

「ならば,チャッピーの抱き枕でも用意してやろう。」

「あかん,あかん。ルキアちゃん以外やったら,悪夢見てまうわ!!」

呆れるルキアをしり目に,口元に笑みをたたえギンはそう答えたのだった。

本当は口には出さないがルキアもギンに抱きしめられて眠るのが大好きなのだ。
ギンの温もりを感じ,ギンの香りに包まれているとひどく安心する。
何時も付けている沈香にギン本来の香りが溶け合ったラストノートはルキアの大好きな香りであった。

でも,その夜はルキアはきゅっと一度ギンの身体を抱きしめると,静かに身を離し,月明かりに照らされるギンの寝顔をじっと見つめた。起きている時は常にたたえられている人を喰ったような嗤いが消え,その代り穏やかで柔らかな子供のような笑みが浮かんでいる。

ルキアの顔にいつくしむ様な微笑が浮かぶ。
自分よりもずっと年上であるのに,眠っている時のギンはひどく無邪気で幼く見える。
実際,ギンはルキアと二人っきりの時は本当に幼子が母に甘えるようにそのそばを片時も離れない。
手をつなぎ,膝で眠り,ルキアを抱きしめて嬉しそうに笑う。
人前ではやらないように躾けたので,二人きりの時は反動でますますルキアに触れたがるギンなのである。

(なんだか,これでは母子のようだ・・・)

ルキアの口から苦笑がもれる。手がかかるところも我儘な所もギンは本当に子供のようだ。
最も,母子と違うところは,ほぼ100%無邪気な行為が緩やかに,もしくは性急に恋人同士(夫婦だが)のそれに移行していくところ・・・

初めて会った時は,こんな未来をギンと過すことになるとは心の片隅にも思いもしなかった。


得体のしれない男,油断のならない男,蛇のような危険な男,ルキアのギンへの印象は最悪であった。
どんなに避けても逃げようとしても必ず現れ,いやらしい言葉や,嫌味や皮肉を投げかけてくるギンに何度泣かされたことであろう。
当時大貴族朽木家の養子に入ったばかりのルキアは心ない誹謗中傷,陰湿な嫌がらせの渦中にいた。
しかし,あからさまにではなく陰で囁かれ,実行される悪意の中で,ずけずけと正面から嫌味や皮肉,意地悪をしてくるのはギンだけであった。いつもルキアがひどく傷ついている時に限って現れ,まるでとどめを刺すようにルキアの怒りを,悲しみをギンは爆発させた。決して泣いたことのなかったルキアを泣かせるのはいつもギンだけであった。

そして見つけた秘密の避難所。
瀞霊廷を見下ろす樹齢2000年とも言われる大樹の先端近くにぽっかりと存在した聖域。
そこで,ルキアはギンへの怒りや不満をぶちまけた。気の済むまでギンの悪口を言い散らした後は不思議とすっきりし,優しい眠りにおちて行くのが常だった。

そんな日々の中,いつものようにそこで眠りについた後,心地よい温かさにルキアは不意に目覚めた。
そして,自分を抱きしめて眠るギンを見つけ驚愕したのだった。すぐさま突き飛ばそうとしたルキアの行動を止めたのは,この寝顔だった。
ルキアを胸に抱きしめて,幸せそうな笑みを浮かべ眠る無邪気な優しい寝顔・・・それを見た瞬間ルキアは何もかもを理解したのだ。

自分の心はギンに護られていたのだと,ずっとずっとギンは自分の傷ついた心の捌け口になってくれていたのだと・・・
そして,自分の周りに結界が張られていることにも初めて気がついた。こんな場所で眠っていたというのに自分は今まで一度も寒さを感じたこともなく,かすり傷一つ負ったこともなかったことを・・・

微かにギンが身じろぎするのを感じ,ルキアは再びギンの腕の中で眠っているふりをした。
ほどなくギンは目覚め,静かに身を起こすと名残惜しげにルキアの頬に優しく触れ,艶やかな髪を撫でた。
ルキアはこんなにも優しく他人に触れられたのは初めてであった。
しばらくギンはルキアの寝顔をじっと見つめていた。そして,振り絞るようにギンが口にした言葉。

「ごめんな・・・」

ギンはルキアの周りに張ってある結界を確かめると,瞬歩で姿を消した。ギンの気配が完全に消えた後,ルキアはゆっくりと瞳を開いた。

そう,いつもいつも,この場所は温かかった,優しかった,護られているといつも感じていた。この場所のせいだと思っていた。でも,本当は・・・ルキアの瞳から涙があふれた。

「たわけが・・・」

ルキアの唇からもれたギンをののしる言葉,それは自分でも驚くほど優しく,愛おしげに響いたのだった。
静かに泣き続けるルキアを満月が優しく照らしていた。



そのことをギンに告げたことはない。ただ,それ以来だんだんにルキアはギンの嫌味や皮肉,子供っぽい意地悪に大人の対応をするようになっていった。
飄々とした軽口で口説くギンのデートの誘いに,たまにつき合うようになり,そして,その回数は徐々に増えていった。

そして,ある日,冗談のような軽い口調でギンに付き合ってくれと言われた時,ルキアはしっかりと頷いて承諾していたのだった。
そのあとのギンの奇蹟でも見るような驚愕の表情は忘れられない。そして何度もルキアに確かめて,それが真実だと知った瞬間,とろけるように笑み崩れ,幸せな子供のような顔で人前であるにもかかわらず,ルキアを力いっぱい抱きしめたのだった。

そんなことを思い出しながら,ルキアはギンのさらさらのくせのない銀髪を撫でる。整った顔立ちをじっと見つめる。
そして,やはりギンは綺麗だなと思う。
ルキアは時折,開眼して見せてくれるギンの瞳の色が好きであった。穏やかな朝霞色の,淡い空色の時も,狂おしく自分を求め一瞬緋色に輝く時も。ルキアの胸に愛しさがこみ上げる。ルキアはそっと呟く。

「ギン・・・大好きだぞ・・・」

「ん・・・ルキアちゃん・・・」

まるで返事をしたかのようなギンの声に,一瞬聞かれたのかとルキアはひやりとする。
しかし,ギンは起きた様子はなく,手探りで何かを探している。
ルキアはくくっと笑った。自分でもそう思えるギンによく似た笑い。

そっとギンにすり寄ると,するりと腕の中に抱きしめられる。ギンの安心したような吐息が聞こえる。
再び規則正しい寝息が聞こえてくる。ギンの安らかな寝息と抱き寄せられた胸から聞こえてくる優しい心臓の音が子守唄のようにルキアを眠りに誘う。
限りない安心と幸福感に包まれてルキアもほどなく眠りにおちていった。




ルキアの愛らしい規則正しい寝息が聞こえてくる。
小さく,くくっと笑う声がした。眠っていたかと思われていたギンがそっと身じろぎすると,ルキアの息遣いを確かめ,愛おしげにその唇に触れるだけの口づけをおとす。本当はギンはルキアが回想に耽っている途中で眼を覚ましていたのだ。

時折ルキアが夜中に目を覚まし,自分を見つめていることはずいぶん前から知っていた。起きていることを知らせて驚かそうとも思ったが,常にない程にルキアが優しく自分を見つめ,髪を撫でてくれ,滅多に告げてくれない愛を囁いてくれていることを知って,ギンは黙っていることに決めたのだった。

この宝石のような優しい幸せな時間に酔いしれながらギンは思う,一体何時のころから,ルキアは自分のことを好きになってくれたのだろう?
およそルキアに好かれるようなことを自分が表だってしたことなど,付き合うようになるまでは少なくとも一度もなかったと言うのに。

付き合う時にしても,まるで本気ではないかのように軽く,拒絶された時に冗談で紛らわせようと逃げ道を残した少々姑息な告白をした自分に,なぜかルキアは真摯に答えてくれたのだった。

ギンは当時を思い返す。



「なあ,ルキアちゃん,ボクと付き合わん?」

誘って連れてきた甘味屋で,眼の前の白玉あんみつをつつきながら,あまり真面目に聞こえないようにあくまで軽い口調で告げたギンの告白。しかし,心臓は早鐘のように鳴り響き,息が止まりそうなほど緊張していた。答えなんかわかりきっている。
今,付き合ってくれているのも新作の甘味に興味があったからにすぎないのだから。でも,言わずにはいられなかったのだ。

「ああ。」ルキアは白玉を口に運びながら頷いた。

「さよか・・・・!?へ・・・えええええええっ!!!!!」

ため息をついて,お茶に手を出そうとした瞬間ルキアの言葉が心に届いた。
ギンは素っ頓狂な声を上げてルキアに詰め寄った。

「ル・・・ルキアちゃん!!い,今何て言うた?」

「ん・・・ああと答えたが。」

ルキアは表情一つ変えず,白玉をもう一つ頬張った。しかし,その頬はあんみつに添えられている桜桃よりも赤く染まっている。呆然とするギンを残し,ルキアは自分の勘定を置いて席を立った。

「ちょ,ちょお待ってや!!ルキアちゃん!!!」

ギンは一瞬のうちに我に返ると,自分の分の代金を置くと慌ててルキアの後を追った。
振り向きもせずに歩いていくルキアに,すぐさま追いつくとギンはルキアの前を通せんぼするように立ちふさがった。

「あ,あのルキアちゃん,付き合う言うことは甘味屋に付き合うとか,そう言うことやないてことはわかっとるよね?」

「わかっておる。」
おそるおそる問いかけるギンに、怒ったような顔で目を合わさずルキアは答える。

「じゃあ,その・・・ルキアちゃん、ボクの彼女になってくれるん?」

「だから,おまえは何回私に訊けば気が済むのだ!最初に言った通りだ・・・」

羞恥故か,やや語尾は小さくなったがルキアはしっかりと承諾の意を告げた。

「ほんまに?」

「・・・・・ああ。」

次の瞬間,ルキアは幼子が高い高いをされるかのように高く抱きあげられていた。そして,驚きに悲鳴を上げるより先に息も出来ぬほど力いっぱいギンの胸に抱きしめられていた。

「ルキアちゃん,ルキアちゃん,ルキアちゃん,今日からキミはボクの彼女なんやね!
夢やないよね!これが夢なんやったらボク死んでも起きへんわ!!!」

とろけそうな笑顔で頬ずりまでされ,ルキアはじたばたとギンの腕の中でもがいた。
ここは天下の往来である。道行く人々の視線が突き刺さる。ルキアは羞恥に顔を真っ赤にさせて叫んだ。

「夢などではない!!とっとと降ろさぬか!この大たわけ―――!!!!」



思い返してみれば甘さのかけらもない告白シーンである。でも,ギンは生まれてきて良かったとあの時ほど感じ,泣きたいほどの幸福感に包まれた瞬間はなかった。
そして今も,ずっとその幸福は続いている。そう,この腕の中に自分の妻となったルキアがいるのだから。

ギンはルキアがいなければ自分は一体どうなっていたのだろうと時折考える。
その考えは全身が震えるほどの恐怖だった。
ルキアなしで生きて行くくらいなら,いっそ死んだ方がましであった。むしろ自分など生まれてくる必要もなかったとさえ思える。

ルキアがいない・・・こんな考えが浮かぶだけで,ギンは子供のように怯え震えおののく自分を知る。
だから眠るのが一番怖い,もしこの幸せが全て夢であったらきっと自分は狂い死にしてしまう,だからルキアを毎夜抱きしめていなければギンは眠れないのだ。この腕の中にある確かな幸せを。
怖い夢を見て,ふと夜中に目覚めても腕の中のルキアの存在に安心し,再び眠りに就くことが出来るのだ。ギンはルキアを起こさないように優しく抱きしめると,そっと耳もとに囁く。

「ルキアちゃん,ありがとう。ボクも大好きや・・・」

でも,自分の方が,ルキアが自分を想うよりも何倍も,何十倍も愛している自信がある。
本当は,いつも護られているのは自分の方なのだ。その優しさに,笑顔に,そばにいてくれる奇蹟に・・・

ギンは幸せな笑みを浮かべながら,胸の中で眠る愛しい奇蹟をしっかりと抱きしめ,再び眠りにおちていった。

そう、キミはボクの夢の護り人,キミがいる限りボクは悪夢に怯えることはない・・・


                〈END〉


あとがき
『哀しき花の護り人』のギンをなんとか報われさせたくて書いたギンルキらぶらぶ夫婦編でございます。望月様,あなたのお言葉がこれを書き切る力をくれましたよ♪感謝をこめて(*^_^*)♪



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